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京都地方裁判所 平成11年(ヨ)929号 決定 2000年12月12日

名古屋市瑞穂区下坂町二丁目三六番地

債権者

株式会社スター精機

右代表者代表取締役

塩谷陽右

右代理人弁護士

奥村哲司

右補佐人弁理士

伊藤研一

京都市伏見区久我本町一一番地の二六〇

債務者

株式会社ユーシン精機

右代表者代表取締役

小谷進

右代理人弁護士

牧野聡

藤原東子

右当事者間の頭書事件について、当裁判所は債権者の申立を相当と認め、債権者に代わり第三者弁護士奥村哲司に金二〇〇万円の担保を立てさせて、次のとおり決定する。

主文

一  債務者は、債権者が製造、販売する別紙目録記載の製品が債務者の実用新案登録第二一四九八九九号の実用新案権を侵害するものである旨を、債権者の取引先その他の第三者に告知したり、流布してはならない。

二  申立費用は債務者の負担とする。

事実及び理由

第一  申立の趣旨

主文同旨

第二  事案の概要

一  事案の要旨

本件は、別紙目録記載の射出成形機用取出機(以下「債権者物件」という。)を製造販売する債権者が、債権者が債権者物件を製造販売する行為は債務者の有する後記実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を侵害する旨主張している債務者に対し、債務者の右主張は虚偽事実に該当する旨主張して、不正競争防止法二条一項一一号、三条一項に基づきその停止ないし予防を求めた事案である。

二  争いのない事実等

1  当事者

債権者は、合成樹脂成型機械及び附帯部品の製造、販売等を目的とする株式会社であり、債務者は、債権者と競業関係にある株式会社である。

2  債務者の実用新案権

債務者は左記実用新案権を有している。

考案の名称 樹脂成形機

出願日 平成二年五月二九日(実願平二―五六七九二号)

出願公開日 平成四年二月七日(実開平四―一五五一六号)

出願公告日 平成六年六月二九日(実公平六―二四一七八号)

登録日 平成一〇年七月一七日

登録番号 第二一四九八九九号

実用新案登録請求の範囲「樹脂成形機の長手方向および幅方向に延びる軌道に沿って成形品取出チャック部を往復移動させる成形品取出装置が当該樹脂成形機の固定金型ホルダに搭載された樹脂成形機において、該樹脂成形機の前記長手方向の中心軸線より前記幅方向の一方側と他方側から選択されたいずれかに変位し、かつ前記固定金型ホルダの金型取付面より射出装置側に偏った位置に設定して電動サーボモータ用ドライバーボックス(以下「制御ボックス」という。)が前記成形品取出装置に取付けられていることを特徴とする樹脂成形機。」(別紙明細書〔以下「本件明細書」という。〕記載のとおり。)

3  本件考案の構成要件は、以下のとおり分説するのが相当である。

A 樹脂成形機の長手方向および幅方向に延びる軌道に沿って成形品取出チャック部を往復移動させる成形品取出装置が当該樹脂成形機の固定金型ホルダに搭載された樹脂成形機において

B 該樹脂成形機の前記長手方向の中心軸線より前記幅方向の一方側と他方側から選択されたいずれかに変位し、かつ前記固定金型ホルダの金型取付面より射出装置側に偏った位置に設定して制御ボックスが前記成形品取出装置に取付けられている

C ことを特徴とする樹脂成形機

4  本件考案は、右構成を採ることにより、以下の作用効果を奏する(本件明細書5欄24行~6欄13行)。

ア 導電線の長さを短縮できる。その結果、AC、DCサーボモータやエンコーダに対するノイズの影響度が小さくなり、成形品取出装置の誤動作を防止して、成形品の取出精度(「精度精度」とあるのは誤記と認める。裁判所注記)の低下を抑えることができる。

イ イニシャルコストを低くして経済的な有利性を確保することもできる。

ウ 作業者の足元に導電線が干渉しなくなるので、それだけ作業環境がよくなり、かつ干渉により導電線が切断されるのを避けることができる。

エ 成形品取出チャック部の往復移動に制御ボックスが干渉することはない。

5  債権者と債務者の交渉の経緯

(一) 債務者は、平成一一年七月二日付内容証明郵便(疎甲六)、同年八月六日付内容証明郵便(疎甲八)で、債権者に対し、機種名を特定せずに、被告が製造販売する製品が本件実用新案権を侵害する旨警告し、場合によっては差止ないし損害賠償請求をする旨通知した。

(二) これに対し、債権者は、平成一一年八月一八日付内容証明郵便(疎甲八)で、債務者に対し、侵害品であるとする債権者の製品の機種の特定と、侵害であるとする根拠の開示を求めたが、債務者は、同月二四日付内容証明郵便(疎甲九)で、債権者に対し、和解案を提示しないときは仮処分申立をする旨通知した。

(三) 債権者が、平成一一年八月三〇日付内容証明郵便(疎甲一〇)で、債務者に対し、侵害品であるとする債権者の製品の機種の特定と、侵害であるとする根拠の開示、更に和解案の提示を求めたところ、債務者は、同年九月二四日付内容証明郵便(疎甲一一)において、少なくとも債権者の製品「TWS―八〇〇FMⅢ」が本件実用新案権を侵害するものであり、債務者としては、債権者が製品を納入しているユーザーへの使用差止請求をせざるを得ない旨回答した。

6  債権者の製造販売する装置

債権者は、債権者物件を、製造、販売している。

債権者物件は、成形された成形型を金型から成形機外に配置されたシュータ、コンベヤー等の搬出装置上に取り出す射出成形機専用の取出機であり(本件考案でいう「成形品取出装置」に当たる。)、債権者の主張する標準仕様どおりに(別紙目録の添付図面)、これが射出成形機に搭載された場合、左記の構成を有することになる。

<1> 成形機の固定側取付盤上部に固定され、成形機の中心軸線と直交する幅方向(X軸方向)に、金型上方から成形機外の搬出装置上に延びる走行フレーム上をX軸方向へ往復移動する走行体と、該走行体に対して成形機の中心軸線方向(Y軸方向)に延びるように設けられた前後フレーム上を往復移動する前後走行体と、該前後走行体に取り付けられ、下部に設けられて成型品を保持するチャックをX軸及びY軸と直交する上下方向(Z軸方向)へ往復移動する上下ユニットを有し、

<2> 走行体及び前後走行体と上下ユニットをそれぞれ独立して駆動してチャックをX軸、Y軸、Z軸の三次元方向へ移動する各ACサーボモータを制御するサーボ駆動制御回路(基板)を収容したサーボ用制御筐体(制御ボックス)を、走行フレームの金型側端部で、その一部が固定側取付盤の金型取付面より金型側に突出した状態で取り付けた

<3> ことを特徴とする樹脂成形機。

三  争点

債務者が、債権者物件が本件実用新案権を侵害する(間接侵害)旨の主張をすることが虚偽であるか否かであり、具体的には以下のとおりである。

1  債権者物件が債権者の主張する標準仕様どおり樹脂成形機に搭載された場合、

(一) その構成<1>は、本件考案の構成要件Aを充足するか。

(二) その構成<2>は、本件考案の構成要件Bを充足するか。

2  争点1のいずれかが否定された場合であっても、債権者物件は、本件考案にかかる物品の製造に「のみ」使用する物といえるか。

四  争点に対する当事者の主張

1  争点1(一)(債権者物件が債権者の主張する標準仕様どおり樹脂成形機に搭載された場合、その構成<1>は、本件考案の構成要件Aを充足するか。)について

【債権者の主張】

特許法七〇条一項は、特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないと規定するところ、本件考案の実用新案登録請求の範囲には、「成型品取出チャック部」の移動につき、明確に二次元方向(長手方向及び幅方向)とのみ記載され、上下方向に移動させるとする記載はない。

また、同条二項は、特許請求の範囲の記載が不明確な場合には、願書に添付した明細書及び図面の記載を考慮して解釈する旨規定するところ、本件願書に添付した明細書及び図面のいずれにも、「成型品取出チャック部」の移動方向に関し、二次元方向へ移動させるとの記載があるのみで、前記二次元方向とともに上下方向へも移動させるとする記載は一切ない。

本件考案の技術範囲を決定する「実用新案登録請求の範囲」には、「考案の詳細な説明」に記載された技術事項の中から、権利化を要求する技術事項を記載しなければならず、他方「考案の詳細な説明」には記載されているが、「実用新案登録請求の範囲」に記載されていない技術事項は、権利化を要求しない技術事項なのである。

さらに、以下の特許公報からわかるように、本件考案出願前から、債務者において、三次元以外の移動形式で成型品を取り出す取出機について当業者において周知であり、十分に承知していることがうかがえる。

・ 疎甲一三(特開平一一二四六〇八五号公報、公開日平成元年一〇月二日)では、樹脂成形機の側方からチャック部を幅方向(一次元方向)へ移動させて成型品を取り出す形式の取出機(なお、右取出機は長手方向に移動可能な構造であり、チヤック部を二次元方向へ移動させて成型品を取り出す構造でもあるし、また、債務者もチャック部を一次元及び二次元方向へ移動させて成型品を取り出す形式の取出機につき疎甲一四において提案しており、債務者自身において三次元以外の移動形式で成型品を取り出す取出機について充分認識している。)が当業者において周知である。

・ チャック部を長手方向及び樹脂成形機の側方と金型との間で旋回移動させて成型品を取出す形式の取出機が当業者において周知である。

このように、チャック部の移動形式につき、本件考案出願以前において、一次元、二次元、三次元及び旋回形式の各取出機が存在するにもかかわらず、すべての取出機はチャック部を三次元方向へ移動させて成型品を取り出す構造であるとする債務者の主張は、当業者の技術常識及び周知事実に反するものであり、全く根拠はない。

以上より、本件実用新案登録請求の範囲、願書に添付した明細書及び図面の記載は、チャック部の移動に関して、一次元、二次元、三次元、旋回の各移動形式の中から特に「長手方向」と「幅方向」の二次元方向であることを限定したものであり、本件における取出機の技術範囲にはチャック部を三次元方向へ移動させる構造の取出機は含まれず、したがって、債権者物件は、本件実用新案に抵触しない。

【債務者の主張】

本件明細書によれば成形品取出チャック部(3A)の記載があるところ、債権者の主張するように仮に本件取出機の成形品取出チャック部が二次元運動しかしないというのであれば、その用を果たさないことは明白である。

すなわち、日本語の表記としては二次元運動にしか言及していないとしても、添付図面からは取出機が三次元運動をすることは明白である。

本件明細書の本件考案の実施例の項において、「本考案の特徴は、電動サーボモータ用ドライバーボックスの設置位置に係り、これらを除く他の部材およびその構成は従来例と異ならないので、第1図ないし第3図において、第5図に対応する部分にはそれぞれ同一符合を付して、その詳しい説明は省略する」との記載があることから明らかなように、制御ボックスの設置位置に関連する以外の説明は、図面などをみれば分かるものとして、本件考案の特徴を構成する上においてあえて必要でないため記載していないにすぎない。

すなわち、本件明細書第1図、第3図及び第5図には、成形品取出チャック部3Aが記載されており、この成形品取出チャック部3Aの上方位置には上方に突出する細長い四角柱の部材が明示されており、「成形品取出装置」が成形機の固定金型ホルダの上面に取り付けられ、かつ「成形品取出装置」の成形品取出チャック部3Aの取付位置からすれば、成形品取出チャック部3Aは、タイバー間を通って、上下方向に往復移動し成形品を取り出す動作をするものであることは、当業者であれば容易に理解できるものである。

以上より、債権者の取出機の動きが債務者の取出機の動きと同一である以上、本件実用新案の技術的範囲に含まれる。

2  争点1(二)(債権者物件が債権者主張の標準仕様どおり樹脂成形機に搭載された場合、その構成<2>は、本件考案の構成要件Bを充足するか。)について

【債権者の主張】

(一) 本件では、本件考案の効果を達成するため、制御ボックスの取付位置を実用新案登録請求の範囲に記載された位置すなわち「前記固定金型ホルダの金型取付面より射出装置側に偏った位置」に限定したのであるから、本件考案では、制御ボックスの取付位置が債務者主張の理由で決定されたものではないことは明らかである。

また、本件では、制御ボックスの取付位置に関して、前記限定事項とは別に、「樹脂成形機の前記長手方向の中心軸線より前記幅方向の一方側と他方側から選択されたいずれかに変位した位置」をも限定事項としている。

右限定事項は、制御ボックスを樹脂成形機の長手方向の中心軸線より幅方向のいずれか一方側の位置に取り付けることを意味し、必ずしもいずれかの端部に取り付ける構造のみを意味するものではない。したがって、右いずれか一方側で「成型品取出チャック部」の移動経路途中に制御ボックスを取り付ける構造をも含んでいる。

右限定条件を充足するいずれか一方の端部に至る途中の取付位置に、債務者が主張するように、制御ボックスの中心が固定金型ホルダの金型取付面より射出装着側に位置させた状態でかつその一部が可動盤側へ飛び出した、債務者の「中心論」(別紙図面記載の制御ボックス1の中心線が固定金型ホルダ4の金型取付面4Aより射出装置6側に偏って入ればよいとする債務者の主張を「中心論」という。)に基づく「偏った」状態で、制御ボックスを取り付ける構造においては、金型取付面から飛び出した制御ボックスの一部が幅方向へ移動する「成形品取出チャック部」に干渉することになる。

この結果、右取付構造では、「勿論、成形品取出チャック部の往復移動により制御ボックスが干渉することはない。」とする本件考案の効果を達成できない。

特に、制御ボックス自体が長手方向へ長尺状のものにあっては、制御ボックスの一部が金型取付面から大きく飛び出す取付構造をも含むことになるが、この場合には、制御ボックスの一部が、移動する「成形品取出チャック部」に対して確実に干渉することになる。

以上の意味においても、債務者の中心論は、本件考案とは相容れないもので、全く根拠はない。

本件の「偏った」の技術的意味合いは、制御ボックス全体が金型取付面より射出装置側に位置する関係に限定されねばならず、サーボモータ用ドライバーボックスの一部が固定盤の金型取付面から可動盤側に飛び出した取付構造の債権者物件は本件実用新案に抵触しないことは明らかである。

(二) 公知技術

仮に債務者の中心論によるとすると、それは、本件出願前に実施された公知の技術内容である。

すなわち、債権者が公然実施した取出機の制御ボックスは、その一部が金型取付面より可動盤側に飛び出した取付構造で債務者の主張における「偏った」に該当することになり、この「偏った」という取付構造は公然実施された公知の技術事項である。なお、債権者が公然実施した取出機の制御ボックスに収容されるのは電磁バルブ等の制御ユニットであることから、本件の「電動サーボモータ用ドライバー」と相違しているが、本件考案の出願前に取出機の駆動部材にサーボモータを使用すること及びその際に制御ボックス内に収容されるサーボモータの駆動制御装置自体は当業者において周知の技術事項であるから、制御ボックスとしては「電動サーボモータ用ドライバーボックス」と実質的に同一である。

債務者のように、カタログの記載方法や見え方を議論しても全く無意味であり、債権者が実際に製造販売している製品が本件実用新案権の侵害となるかが問題なのである。

【債務者の主張】

(一) 債権者物件の制御ボックスの取付位置について、樹脂成形機の長手方向の中心軸線より幅方向の一方側と他方側から選択されたいずれかに変位した位置であることは争いがない。

債権者物件の制御ボックスの取付位置が、樹脂成形機の固定金型ホルダの金型取付面より射出装置側に偏った位置に取り付けられているか否かであり、債権者はこれを否認している。

そもそも「偏る」とは、一方に寄っていることを意味し、本件考案の効果が、実用新案公報によれば導電線の、長さを短縮できること及び作業者の足元に導電線が干渉しなくなることにあることからすると、成形品取出装置に取り付けられる点に主たる意味がある。

また、樹脂成形機の金型交換の邪魔にならず、成形品取出チャック部の往復運動にも干渉しないという点で、脚部への取付位置が固定金型ホルダの金型取付面の射出装置の反対側にあれば問題が生じるおそれがあることから、基準となる金型取付面より射出装置側に主たる取付位置があつて、成形品取出チャック部の往復運動に干渉しなければ足りるという程度の趣旨である。

したがって、「偏る」とは、右制御ボックスの取付位置が、樹脂成形機の固定金型ホルダの金型取付面より射出装置側に完全に寄ってしまった位置を意味するものではない。単に、右制御ボックスの取付位置を決めた目的に適合する程度に偏っている趣旨にすぎない。

(二) 本件明細書の実用新案登録請求の範囲に「前記固定金型ホルダの金型取付面より射出装置側に偏った位置に設定して電動サーボモータ用制御ボックスが前記成形品取出装置に取り付けられている」と記載されているのは、以下の別紙図面に記載の構造からも明らかである。

すなわち、引抜部11は五〇~六〇キログラム程度の相当な重量があり、成形品取出装置全体からみれば、固定金型ホルダ4の金型取付面4Aより可動金型ホルダ10側に相当な重量がかかっているといえる。

また、引抜部11は固定金型ホルダ4の金型取付面4Aより可動金型ホルダ10側に相当な重量がかかっている上に更に成形品及びスプールランナー自体の重量も加わることになる。

制御ボックス1の重量は約五〇キログラム程度あり、これを従来の問題点の解決のため、床置きから成形品取出装置3に取り付けるのであるが成形品取出装置3は成形品取出チャック部3Aとスプールランナー取出チャック部3Bなどを有する引き抜き部11を設けている関係上、固定金型ホルダ4の金型取付面4Aより可動金型ホルダ10側に相当な重量がかかって固定金型ホルダ4上に取り付けられている。

そして、この固定金型ホルダ4の金型取付面4Aより可動金型ホルダ10側にかかる相当な重量を考慮し、かつ、この相当な重量のバランスを図る上でほぼ同等な重量を有する制御ボックス1を固定金型ホルダ4の金型取付面4Aより射出装置6側に偏った位置に設定すれば固定金型ホルダ4上に取り付けられる成形品取出装置3自体の重量バランス的に望ましい位置に取り付けることができる。

したがって、本件考案においては成形品取出装置3の固定金型ホルダ4への取付構造から制御ボックス1を固定金型ホルダ4の金型取付面4Aより射出装置6側に偏った位置に設定しているのである。要するに、制御ボックス1の中心線が固定金型ホルダ4の金型取付面4Aより射出装置6側に片寄っていればよく、かかる場合にも十分に成形品取出装置3自体の重量的バランスを図ることができる。

(三) 疎乙七、八の写真及び疎乙九の図面によれば、債権者物件は制御ボックスは固定金型取付面より射出装置側に偏った位置に取り付けられていることがわかる。少なくとも制御ボックスは固定金型取付面より可動金型ホルダ側に突出していないことは明らかであり、疎甲二のカタログに示されている「TWS―八〇〇FMⅢ」と外形寸法図と同様な状態で設けられている。

また、疎甲二の正面図には制御ボックスが明示されているにもかかわらず右側面図には制御ボックスがその図面上に記載されていない。

そうすると、疎甲二のカタログ記載の「TWS―八〇〇FMⅢ」はその制御ボックスが固定金型取付面より可動盤取付ホルダ側に突出していない状態にあることがわかる。FMⅢのカタログに示されている「TWS―八〇〇FMⅢ」(疎乙一二)と同様にその制御ボックスは固定金型取付面より可動盤取付ホルダ側に突出していない状態にある。以上から債権者物件を債権者主張の標準仕様で樹脂成形機に搭載した場合、本件考案の構成要件Bを充足することは明らかである。

(四) 更に、TW(S)―八〇〇FMⅡ(疎乙一三)は、債権者物件すなわちTW(S)―八〇〇FMⅢの前の機種で平成一〇年夏ころまで販売されていたものであり、疎乙一三に示すTW(S)―八〇〇FMⅡの制御ボックスは標準タイプの「床置き式」と、オプションの「機電一体型」との二タイプがあり、機電一体型の分は制御ボックスが「走行フレーム」の長手方向の一端に取り付けられた状態のものをいい、右オプションの機電一体型のTW(S)―八〇〇FMⅡとTW(S)―八〇〇FMⅢとは制御ボックスについては同じであるといえ、さらに制御ボックスについての右両者の差異はTW(S)―八〇〇FMⅢが「機電一体型」すなわち制御ボックスが「走行フレーム」の長手方向の一端に取り付けられた状態が標準タイプであるのに対し、TW(S)―八〇〇FMⅡでは「機電一体型」がオプションとされていた点にある。

そして、疎乙一五《TW(S)―八〇〇FMⅡの図面》によれば、その制御ボックスが固定金型取付面より可動盤取付ホルダ側に突出していない状態にあることから、債務者の実用新案権を侵害するといえる。

別紙図面記載の制御ボックス1の一部が固定金型ホルダ4の金型取付面4Aより僅かにあるいは少々可動金型ホルダ10側に突出していたとしても、金型12の取付作業において接触する危険性は少なく作業に支障がないものであって、制御ボックス1全体が固定金型ホルダ4の金型取付面4Aより射出装置6側に偏った位置に設定されている以上、債権者物件の制御ボックスも固定金型ホルダ4に金型取付面4Aより射出装置6側に偏った位置に設定されていると解するのが相当である。

3  争点2(争点1のいずれかが否定された場合であっても、債権者物件は、本件考案にかかる物品の製造に「のみ」使用する物といえるか。)

【債権者の主張】

債権者物件は、工場出荷形態においては、制御ボックスの一部が金型取付面より可動金型側へ突出した状態で取り付けられた構造であるが、制御ボックスについて「取付ブラケット」の「ねじ穴」を選択して金型取付面より射出装置側に位置させることができ、その結果、金型取付面から一部が射出装置側に突出した取付態様の選択も可能である。

現に、債権者は、債権者物件につき、走行フレームの一方端部に対し、取付ブラケットを介して、制御ボックスの一部が固定側取付盤の金型取付面より可動金型側(射出装置と反対側)に突出した状態で取り付けて、工場から出荷しており、債権者の債権者物件の納入先においても、右工場出荷形態の構造のまま使用されている。

よって、債権者物件は、実用新案法二八条に規定する「登録実用新案にかかる物品の製造にのみ使用する物」に該当しないことは明らかである。

なお、債務者は、制御ボックスを選択的に射出装置側へ偏った取付状態に取り付けうるという選択的構成は、同法二八条の「のみ使用」の問題ではなく、同条に規定する「登録実用新案に係る物品」の問題、すなわち本件考案の「実用新案登録請求の範囲」の技術的範囲に含まれるか否かの問題である旨主張するが、本件審尋手続において、争点を直接侵害の成否でなく間接侵害の成否に限定したことに矛盾する主張である。

【債務者の主張】

債権者物件は本件実用新案の技術的範囲に含まれるのであり、間接侵害が成立する。

TW(S)―八〇〇FMⅢにおいて、「取付ブラケット」の「ねじ穴」を変えることにより、制御ボックスを固定金型取付面より射出装置側へ一三五ミリメートル移動した場合には、制御ボックスは、固定金型取付面からその一部が射出装置と反対側に突出するのではなく、完全に金型取付面より射出装置側に偏った位置に取り付けた状態となり、本件考案の「実用新案登録請求の範囲」の技術的範囲に含まれる。

また、債権者は、「取付ブラケット」のねじ穴を変えることにより、制御ボックスを選択的に射出装置側へ偏った取付状態を取りうるので実用新案法二八条の「のみ使用」の規定に該当しないと主張する。

しかしながら、制御ボックスを選択的に射出装置側へ偏った取付状態に取り付けうるという選択的構成は、同法二八条の「のみ使用」の問題ではなく、同条に規定する「登録実用新案に係る物品」の問題、すなわち本件考案の「実用新案登録請求の範囲」の技術的範囲に含まれるか否かの問題である。

したがって、「取付ブラケット」のねじ穴を変えることにより、制御ボックスを選択的に射出装置側へ偏った取付状態を採りうる成形品取出装置を製造販売することは、実質的に本件考案の「実用新案登録請求の範囲」の技術的範囲に含まれる成形品取出装置を製造販売することに他ならないものであり、同法二八条に規定する間接侵害となる。

第三  当裁判所の判断

【被保全権利の存在】

一  争点1(一)(債権者物件が債権者主張の標準仕様どおり樹脂成形機に搭載された場合、その構成<1>は、本件考案の構成要件Aを充足するか。)について

1 本件明細書及び図面の記載

(一) 本件明細書の実用新案登録請求の範囲の欄

「樹脂成形機の長手方向及び幅方向に延びる軌道に沿って成形品取出チャック部を往復移動させる成形品取出装置」

(二) 「産業上の利用分野」の欄には、「本考案は樹脂成形機に係り、特に、制御ボックスから成形品取出装置に収納されている電動サーボモータあるいは該サーボモータに付設されているエンコーダに対して、電気的に接続される導電線の長さを短縮し、かつ制御ボックスの設置位置と前記電動線の配線位置を作業者の邪魔にならない位置に設定するための技術に関する」(1欄行~2欄4行)との記載がある。

(三) 「従来の技術」の欄には、「この種従来の樹脂成形機は、一般に、第5図に示すように、樹脂成形機2の長手方向に延びる軌道Xおよび幅方向に延びる軌道Yに沿って成形品取出チャック部3Aを往復移動させる成形品取出装置3が」(2欄6行~9行)との記載がある。

(三) 「考案が解決しようとする課題」の欄には、「解決しようとする問題点は、導電線の長さが長いために、アンテナ作用が増大し、AC、DCサーボモータやエンコーダに対するノイズの影響度が高くなって、誤動作を招き、成形品の取出精度を低下させる点、横断面積が大きく、かつ寸法の長い多数の導電線を必要とするので、イニシャルコストが高くなり経済的に不利な点および作業者の足元に干渉するので邪魔になり、作業性を低下させる一因になるとともに、干渉により導電線が切断する点などの諸点である。」(3欄35行~44行)との記載がある。

(四) 「課題を解決するための手段」の欄には、「本考案は、樹脂成形機の長手方向及び幅方向に延びる軌道に治つて成形品取出チャック部を往復移動させる成形品取出装置が当該樹脂成形機の固定金型ホルダに搭載された樹脂成形機において、該樹脂成形機の前記長手方向の中心軸線より前記幅方向の一方側と他方側から選択されたいずれかに変位し、かつ前記固定金型ホルダの金型取付面より射出装置側に隔たった位置に設定して制御ボックスが前記成形品取出装置に取付けられていることを特徴とし、ノイズの影響度を小さくして誤動作を避け、成形品の取出精度(「制度」とあるは誤記と認める。裁判所注記)を向上させ、イニシャルコストを低くするとともに、作業者の足元への干渉をなくして作業環境を良くし、干渉による導電線の切断を防止する目的を達成した。」(3欄行~4欄8行)との記載がある。

(五) 「作用」の欄には、「本考案によれば、導電線の長さを短縮できる。その結果、AC、DCサーボモータやエンコーダに対するノイズの影響度が小さくなる。また、導電線が床面に配線されなくなるので、作業者の足元への干渉がなくなる。さらに、成形品取出チャック部の往復運動に干渉しない。」(4欄10行~14行)との記載がある。

「実施例」の欄には「電動ドライバーボックス1は、樹脂成形機2の長手方向中心軸線Cより幅方向の一方側に少し変位し」(4欄31行~33行)との記載がある。

本件明細書第1図における成形品取出チャック部(3A)によると、右チャック部が上下運動することは、実施例として可能であるとうかがえる。

2 検討

たしかに、債権者主張のとおり、本件明細書には、チャックの移動について、直接的には幅方向と長手方向しか記載されていない。しかし、本件明細書第1図から、チャック部が上下運動することは可能とみられることは、前記のとおりである。

債権者も自認するとおり、チャック部の移動形式につき、本件考案出願以前において、一次元、二次元、三次元及び旋回形式の各成形品取出装置が搭載された樹脂成形機が存在していたものであるが、前記1(三)記載の「考案が解決しようとする課題」は、債権者主張のいわゆる二次元移動の成形品取出装置が搭載された樹脂成形機に特有のものとはいえず、また、本件考案の作用効果が右二次元移動の成形品取出装置が搭載された樹脂成形機でしか奏しないものとも考えられない。

そもそも、本件考案は、チャック部の移動形式に関するものではない。

以上によれば、本件考案の構成要件Aに「樹脂成形機の長手方向および幅方向に延びる軌道に沿って成形品取出チャック部を往復させる」とあるのは、成形品取出装置におけるチャック部の基本的な移動方向を規定するにとどまり、チャック部が上下運動をするものを排除するものとは解されないから、債権者物件が債権者主張の標準仕様どおり樹脂成形機に搭載された場合、その構成<1>は、本件考案の構成要件Aを充足するものというべきである。

二  争点1(二)(債権者物件が債権者主張の標準仕様どおり樹脂成形機に搭載された場合、その構成<2>は、本件考案の構成要件Bを充足するか。)について

1 明細書及び図面の記載

(一) 本件明細書の実用新案登録請求の範囲の欄には、「固定金型ホルダの金型取付面より射出装置側に偏った位置に設定して制御ボックスが前記成形品取出装置に取付けられている」との記載がある。

(二) 「課題を解決するための手段」の欄には、「固定金型ホルダの金型取付面より射出装置側に偏った位置に設定して制御ボックスが前記成形品取出装置に取り付けられていることを特徴とし」との記載がある。

(三) 本件明細書第2図、第3図及び第4図の制御ボックス1は、その全体が、固定金型ホルダの金型取付面の反対側である射出装置側に取り付けられている。

2 検討

1の各記載及び前記一1(三)「考案が解決しようとする課題」、(四)「課題を解決するための手段」、(五)「作用」の各記載に鑑みると、本件考案の効果のうちアないしウは、制御ボックスを、従来技術では床に配置していたのに対し、成形品取出装置に取り付けたことそのものによる効果と解され、構成要件Bのように具体的に限定された構成をとったことによる効果はエであると解される。

そして、制御ボックス全体が、固定金型ホルダの金型取付面の反対側である射出装置側に取り付けられることで本件考案の効果エを確実に奏することが明らかである。

ことに、本件考案の構成要件Βには、制御ボックスの取付位置に関して、「樹脂成形機の前記長手方向の中心軸線より前記幅方向の一方側と他方側から選択されたいずれかに変位した位置」との構成も含むが、これは、文言上制御ボックスを樹脂成形機の長手方向の中心軸線より幅方向のいずれか一方側の位置に取り付けることであって、いずれかの端部に取り付ける構造に限定する趣旨とは解されない。したがって、右いずれか一方側で「成型品取出チャック部」の移動経路途中に制御ボックスを取り付ける構造をも含んでいるから、特にそのような場合は本件考案の効果エを奏するためには、制御ボックスが、固定金型ホルダの金型取付面の反対側である射出装置側に取り付けられることが必須となる。

そうすると、本件考案の効果にかんがみると、本件考案の構成要件Bの解釈として、制御ボックス全体が、固定金型ホルダの金型取付面の反対側である射出装置側に取り付けられることが必要であると解するのが相当である。

これを債権者物件についてみるに、債権者物件が、債権者主張の標準仕様どおり樹脂成形機に搭載された場合、制御ボックスの一部が金型取付面より可動金型側へ突出した状態で取り付けられることになり(甲二〇の1~二四の3)、制御ボックス全体が固定金型ホルダの金型取付面の反対側である射出装置側に取り付けられたものでない。

以上によれば、債権者主張の標準仕様どおり債権者物件が樹脂成形装置に搭載された場合における構成<2>は、本件考案の構成要件Bを充足しない。

三  争点2(争点1のいずれかが否定された場合であっても、債権者物件は、本件考案にかかる物品の製造に「のみ」使用する物といえるか。)について

「登録実用新案にかかる物品の製造にのみ使用する物」(実用新案法二八条)とは、単にその物が「他の用途」に使えば使いうるといった程度の実験的または一時的な使用の可能性があるだけでは足りないことはもちろん、「他の用途」が商業的、経済的にも実用性ある用途として社会通念上通用し承認されうるものであり、かつ原則としてその用途が現に通用し承認されたものとして実用化されている必要があると解するべきである。

債権者物件は、前記のとおり、その制御ボックスの取付位置について、制御ボックスの取付ブラケットには、制御ボックスを固定するためのねじを通すねじ穴が形成されており、制御ボツクスを、固定取付盤の金型取付面より可動金型側に飛び出した位置や金型取付面より射出装置側へ設置することが可能であり、成形機に取り付ける際、取付位置を調整することができる構造となっていることが認められる(疎甲一七、一八の1、2)。

このように、債権者物件の制御ボックスを金型取付面より可動金型側に飛び出した位置のみならず、金型取付面より射出装置側へ偏った位置に設置することも可能であり、かかる場合において、間接侵害が成立しうるか問題となるも、実用新案法二八条における「製造にのみ使用する物」といえるか否かについては、結局実用新案権の実施以外の「他の用途」の存在の有無が問題となるのであり、まさに「制御ボックスを金型取付面より可動金型側に飛び出した位置」に設置する債権者製品が「他の用途」として、商業的、経済的にも実用性ある用途として社会通念上通用し承認されうるものであり、かつ原則としてその用途が現に通用し承認されたものとして実用化されているか否かが問題となるのである。したがって、債権者物件の制御ボックスが、金型取付面より可動金型側に偏った位置に設置することが可能であるとしても、その実用性いかんによっては、間接侵害が成立する余地は十分認められるものである。

本件では、債権者物件が、本件考案の構成要件Bのように制御ボックスを射出装置側に偏った位置に設置して使用するという用途の他に、金型取付面より可動金型側に寄った位置に設置して使用することも可能であり、そうすると、構成要件Bの構造を有する本件考案の用途以外の用途があるといえる。

そして、制御ボックスが金型取付面より可動金型側に寄った位置に設置した債権者製品も、商品として販売され、債権者の取引先において、債権者物件が債権者工場の出荷形態の構造のまま使用されている(疎甲二〇の1~二四の3)ことからすると、右は、成形機取出機として商業的、経済的にも実用性ある用途として社会通念上通用し承認されうるものであり、その用途が現に通用し承認されたものとして実用化されているといえる。

よって、債権者物件は本件考案にかかる物品の製造にのみ使用されるものであるとはいえない。

この点、債務者は、「取付ブラケット」のねじ穴を変えることにより、制御ボックスを選択的に射出装置側へ偏った取付状態をとりうるという選択的構成は、実用新案法二八条に規定する「のみ使用」の問題ではなく、同条に規定する「登録実用新案に係る物品」の問題、すなわち、本件考案の「実用新案登録請求の範囲」の技術的範囲に含まれるか否かの問題である旨主張する。

しかしながら(一件記録によれば、本件において争点が間接侵害の成否にしぼられたのは樹脂成形装置の構成部分である債権者物件について直接侵害が成立する余地はないという観点からされたものであることが明らかであるから、債務者の右主張が争点限定の趣旨に反するという債権者の主張は理由はないが)、争点1(二)で述べたとおり、債権者物件の構成<2>「制御ボックスを走行フレームの金型側端部で、その一部が固定側取付盤の金型取付面より金型側に突出した状態で取り付けた」は、本件考案の構成要件B「金型取付面より射出装置側に偏った位置に設定して制御ボックスが前記成形品取出装置に取付けられている」を満たさないことを前提に、更に、債権者物件が、本件考案にかかる物品の製造に「のみ」使用する物か否かを問題としているのであるから、右債務者の主張は、認め難い。

したがって、債権者物件の製造、販売は、本件考案にかかる物品の製造にのみ使用される物の製造、譲渡に該当しない。

四  以上によれば、債務者は、債権者の販売する債権者物件が、債務者の有する実用新案権を侵害するものであるとの虚偽の事実を陳述、流布する不正競争行為を行ったものと認めることができる。

また、右債務者の不正競争行為により、営業上の利益を侵害されるおそれが一応認められる。

【保全の必要性】

以上によれば、保全の必要性も肯定することができる。

第三  結語

以上のとおり、本件申立ては理由があるからこれを認容し、申立費用負担につき民事保全法七条、民事訴訟法六一条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判官 鈴木紀子)

目録

債権者物件の説明

FMⅢの機種名を有する射出成形機用取出機

(図面の説明)

第一図(TWS―八〇〇FMⅢ)

A…正面図

B…平面図

C…右側面図

第二図(TW―八〇〇FMⅢ)

A…正面図

B…平面図

C…右側面図

甲第一五号証

第一図

<省略>

第二図

<省略>

乙第2号証

日本国特許庁(JP) 実用新案公報(Y2) 実用新案出願公告番号

実公平6―24178

公告日 平成6年(1994)6月29日

Int.CL.5  識別記号 庁内整理番号 FI 技術表示箇所

B29C 45/03 7344―4F

45/17 7344―4F

45/42 7639―4F

請求項の数1(全5頁)

出願番号 実願平2―56792出願日 平成2年(1990)5月29日公開番号 実開平4―15516公開日 平成4年(1992)2月7日 出願人 999999999株式会社ユーシン精機京都府京都市伏見区久我本町11―260考案者 小谷 進京都府京都市伏見区久我本町11―260 株式会社ユーシン精機内代理人 弁理士 玉田 修三 (外1名)審査官 多喜 鉄雄参考文献 特開 平1―285317(JP、A)実開 昭61―87914(JP、U)実開 昭62―166015(JP、U)

(54) 【考案の名称】樹脂成形機

実用新案登録請求の範囲】

【請求項1】樹脂成形機の長手方向および幅方向に延びる軌道に沿って成形品取出チャック部を往復移動させる成形品取出装置が当該樹脂成形機の固定金型ホルダに搭載された樹脂成形機において、該樹脂成形機の前記長手方向の中心軸線より前記幅方向の一方側と他方側から選択されたいずれかに変位し、かつ前記固定金型ホルダの金型取付面より射出装置側に偏った位置に設定して電動サーボモータ用ドライバーボックスが前記成形品取出装置に取付けられていることを特徴とする樹脂成形機。

【考案の詳細な説明】

[産業上の利用分野]

本考案は樹脂成形機に係り、特に、電動サーボモータ用ドライバーボックスから成形品取出装置に収納されている電動サーボモータあるいは該サーボモータに付設されているエンコーダに対して、電気的に接続される導電線の長さを短縮し、かつ電動サーボモータ用ドライバーボックスの設置位置と前記導電線の配線位置を作業者の邪魔にならない位置に設定するための技術に関する。

[従来の技術]

この種従来の樹脂成形機は、一般に、第5図に示すように、樹脂成形機2の長手方向に延びる軌道Xおよび幅方向に延びる軌道Yに沿って成形品取出チャック部3Aを往復移動させる成形品取出装置3が脚部5を介して樹脂成形機2の固定金型ホルダ4に搭載されており、この固定金型ホルダ4は、加熱筒6Aおよびホッパドライヤ6Bを備えた射出装置6に対向して配置されている。そして、成形品取出装置3に収容されているDCサーボモータもしくはACサーボモータ(図示省略)およびこれらのサーボモータに付設されているエンコーダ(図示省略)に対して、制御信号を出力する電動サーボモータ用ドライバーボックス1(DCサーボモータもしくはACサーボモータには、必ず専用の電動サーボモータ用ドライバーボックス1が必要である)と、この電動サーボモータ用ドライバーボックス1に制御信号を出力する制御ボックス1Aを、樹脂成形機2近傍の床面に設置した構成になっている。

しかし、電動サーボモータ用ドライバーボックス1が樹脂成形機2近傍の床面に設置された床置き式の構造では、電動サーボモータ用ドライバーボックス1から成形品取出装置3に収容されているAC、DCサーボモータやエンコーダまでの距離が長くなり、当然、電動サーボモータ用ドライバーボックス1からAC、DCサーボモータやエンコーダに制御信号を出力する導電線EWの長さが長くなる。このように、導電線EWの長さが長くなるとアンテナ作用が増大し、AC、DCサーボモータやエンコーダに対するノイズの影響度が大きくなって成形品取出装置3の誤動作を招き、成形品の取出精度制度を低下させる要因になっている。

一方、導電線EWの通電量は大きいので大きい横断面積が必要になる。しかも、導電線EWの必要数量が多い。具体的には、1軸制御方式に12本(芯)の導電線EWが必要であり、この種の成形品取出装置3では、3軸制御方式ないし6軸制御方式が要求されるので、36芯~62芯の多芯導電線EWが必要になる。つまり、寸法の長い多数の導電線EWが必要になる。したがって、イニシャルコストが高くなり経済的に不利である。

他方、電動サーボモータ用ドライバーボックス1が樹脂成形機2近傍の床面に設置された床置き式の構造では、導電線EWの一部が床面に配線されることになる。このように導電線EWの一部が床面に配線されると、作業者の足元に干渉するのて邪魔になり作業環境を悪くするとともに、干渉により導電線EWが切断される虞れを有している。

[考案が解決しようとする課題]

解決しようとする問題点は、導電線の長さが長いために、アンテナ作用が増大し、AC、DCサーボモータやエンコーダに対するノイズの影響度が高くなって、誤動作を招き、成形品の取出精度を低下させる点、横断面積が大きく、かつ寸法の長い多数の導電線を必要とするので、イニシャルコストが高くなり経済的に不利な点および作業者の足元に干渉するので邪魔になり、作業性を低下させる一因になるとともに、干渉により導電線が切断する点などの諸点である。

[課題を解決するための手段]

本考案は、樹脂成形機の長手方向および幅方向に延びる軌道に沿って成形品取出チャック部を往復移動させる成形品取出装置が当該樹脂成形機の固定金型ホルダに搭載された樹脂成形機において、該樹脂成形機の前記長手方向の中心軸線より前記幅方向の一方側と他方側から選択されたいずれかに変位し、かつ前記固定金型ホルダの金型取付面より射出装置側に偏った位置に設定して電動サーボモータ用ドライバーボックスが前記成形品取出装置に取付けられていることを特徴とし、ノイズの影響度を小さくして誤動作を避け、成形品の取出制度を向上させ、イニシャルコストを低くするとともに、作業者の足元への干渉をなくして作業環境を良くし、干渉による導電線の切断を防止する目的を達成した。

[作用]

本考案によれば、導電線の長さを短縮できる。その結果、AC、DCサーボモータやエンコーダに対するノイズの影響度が小さくなる。また、導電線が床面に配線されなくなるので、作業者の足元への干渉がなくなる。さらに、成形品取出チャック部の往復移動に干渉しない。

[実施例]

以下、本考案の実施例を図面に基づいて説明する。

第1図は本考案を適用した樹脂成形機の正面図、第2図は同平面図、第3図は同左側面図である。なお、本考案の特徴は、電助サーボモータ用ドライバーボックスの設置位置に係り、これらを除く他の部材およびその構成は従来例と異ならないので、第1図ないし第3図において、第5図に対応する部分にはそれぞれ同一符号を付して、その詳しい説明は省略する。

第1図ないし第3図において、成形品取出装置3は、軌道Yの基端部を樹脂成形機2の長手方向中心軸線Cの一方側近傍に位置させ、先端部側が中心軸線Cの他方側に大きく延出されており基端部側の下方に設けられた脚部5が樹脂成形機2の固定金型ホルダ4に搭載固定されている。そして、電動サーボモータ用ドライバーボックス1は、ブラケット7を介して成形品取出装置3の脚部5に取付けられている。すなわち、電動サーボモータ用ドライバーボックス1は、樹脂成形機2の長手方向中心軸線Cより幅方向の一方側に少し変位し、かつ固定金型ルダ4の金型取付面4Aより射出装置6側に偏った位に設定した状態で成形品取出装置3に取付けられている。

このような構成であれば、電動サーボモータ用ドライバーボックス1から成形品取出装置3に収容されているAC、DCサーボモータやエンコーダまでの距離が従来の樹脂成形機2よりも短くなるので、電動サーボモータ用ドライバーボックス1から図示されていないAC、DCサーボモータやエンコーダに制御信号を出力する導電線EW(図示省略)の長さを短縮できる。その結果、導電線EWのアンテナ作用が大幅に低下し、AC、DCサーボモータやエンコーダに対するノイズの影響度がきわめて小さくなり、成形品取出装置3の誤動作を防止して、成形品の取出精度の低下を抑えることができる。

また、導電線EWの必要数量が多くても、その長さが短いので、従来の樹脂成形機2と比較して、イニシャルコストが低くなり経済的に有利であるとともに、作業者の足元に導電線EWが干渉しなくなるので、それだけ作業環境がよくなり、かつ干渉により導電線EWが切断されることはない。さらに、成形品取出チャック部3Aの往復移動に電動サーボモータ用ドライバーボックス1が干渉することはない。

なお、前記実施例では、電動サーボモータ用ドライバーボックス1を、樹脂成形機2の長手方向中心軸線Cより幅方向の一方側に少し変位して成形品取り出し装置3に取り付けた構成で説明しているが、本考案は、前記実施例にのみ限定されるものではなく、第4図に示すように、成形品取出装置3における軌道Y方向の基端部を樹脂成形機2の長手方向中心軸線Cより幅方向の他方側にさせ、先端部側を中心軸線Cより幅方向の一方側にきく延出させ、基端部側の下方に設けられた脚部5を樹脂成形機2の固定金型ホルダ4に搭載固定し、ブラケット7を介して、電動サーボモータ用ドライバーボックス1を成形品取出装置3の脚部5に取付けた構成、つまり、電動サーボモータ用ドライバーボックス1を樹脂成形機2の長手方向中心軸線Cより他方側に少し変位し、かつ固定金型ホルダ4の金型取付面4Aより射出装置6側に偏った位置に設定した状態で成形品取出装置3に取付けた構成であっても、前記実施例と同様の作用・効果を奏することができる。

[考案の効果]

以上説明したように、本考案は、電動サーボモータ用ドライバーボックスを樹脂成形機の長手方向中心軸線より樹脂成形機の幅方向の一方側と他方側から選択されたいずれかに変位し、かつ固定金型ホルダの金型取付面により射出装置側に偏った位置に設定して成形品取出装置に取付けるように構成しているので、導電線の長さを短縮できる。その結果、AC、DCサーボモータやエンコーダに対するノイズの影響度が小さくなり、成形品取出装置の誤動作を防止して、成形品の取出精度精度の低下を抑えることができ、イニシャルコストを低くして経済的な有利性を確保することもできる。しかも、作業者の足元に導電線が干渉しなくなるので、それだけ作業環境がよくなり、かつ干渉により導電線が切断されるのを避けることができる。勿論、成形品取出チャック部の往復移動に電動サーボモータ用ドライバーボックスが干渉することはない。

【図面の簡単な説明】

第1図は本考案樹脂成形機の正面図、第2図は同平面図、第3図は同左側面図、第4図は本考案の変形例を示す平面図、第5図は従来例の一部分解斜視図である。

1……電動サーボモータ駆動用ボックス

2……樹脂成形機

3……成形品取出装置

3A……成形品取出チャック部

4……固定金型ホルダ

4A……固定金型ホルダの金型取付面

6……射出装置

C……樹脂成形機の長手方向中心線

X……樹脂成形機の長手方向に延びる軌道

Y……樹脂成形機の幅方向に延びる軌道

【第1図】

【第2図】

【第3図】

【第5図】

【第4図】

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

別紙図面

第一図A

<省略>

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